はじめに
はじめに。を書き始めました。

はじめに
現代は、かつてないほどのデジタル革命の真っただ中にあります。スマートフォン、インターネット、そしてAI技術の飛躍的な進化は、私たちの日常生活やビジネスの在り方を劇的に変えつつあります。AIは膨大なデータを高速で解析し、業務の自動化や効率化を実現する一方、デジタル技術の恩恵を受ける企業は、数値やロジックに基づいた最適化を追求しています。しかし、このような技術革新が進む中で、私たちが失いつつあるもの、それは「生身の感情」や「五感すべてで感じる体験」、ひいては「記憶に深く刻まれる物語」です。
本書は「思い出が生まれる瞬間をデザインする――AI時代にファンを惹きつけ、リピートを生むCXメソッド」というタイトルのもと、デジタルが人間の脳を凌駕する時代において、なぜあえて全感覚を刺激する体験デザインが必要なのか、その根源的な問いに挑みます。デジタル技術による効率性や自動化は、情報を正確に、迅速に処理することを可能にしました。しかし、これだけでは生み出せないのが、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚といったあらゆるセンサーが連動して感じる「生の体験」です。そして、体験が終わった後も、私たちはその瞬間を自らの記憶や物語として何度も反芻し、感動を再確認します。このプロセスこそが、ブランドと顧客との真のエンゲージメントを生むのです。
例えば、ディズニーは単なるテーマパークとしての機能に留まらず、来場者がその場で「魔法の瞬間」を体感し、家族や友人と語り合いたくなるような物語を創り出しています。ディズニーのパーク内では、五感すべてに訴える映像、音楽、アトラクションが組み合わされ、参加者はまるで夢の世界に迷い込んだかのような感動を体験します。これにより、来場者はその体験を自らの記憶の中に深く刻み、何度も語りたくなるのです。
また、ANAは3.11という社会的混乱の中で、ポケモンとのコラボレーションや777の初着陸を実現することで、被災地の子どもたちに未来への希望と温かい記憶を届けました。これらの取り組みは、単なる効率的なサービス提供にとどまらず、参加者の心に直接響く体験として多くの人々に語られ、長く記憶されるブランド体験を創出しています。
さらに、資生堂は「自分をおそうじする」という革新的なコンセプトのもと、心・肌・体を総合的に整える体験プログラムを展開しています。ここでは、化粧品の効果を超えて、参加者が実際に五感を通じて自分自身の変化を実感し、さらにはその体験を自らのナラティブとして再構築するプロセスが重視されています。加えて、資生堂は肌の役割を単なる美の象徴ではなく、人と人とのふれあいやコミュニケーションの媒介として再定義する実験的なプロジェクトにも取り組んでいます。多文化背景を持つメンバーが集い、肌を通して感じる新たな価値を探求するこの試みは、これからのブランド体験の可能性を示唆するものです。
こうした事例が示すのは、たとえAIやデジタル技術が進化し、業務の効率化が進んだとしても、顧客の心に深く刻まれるのは、論理やデータではなく、人間の五感すべてに働きかける体験と、その体験に基づく物語であるということです。デジタル時代においてこそ、あえて人間らしい感性や体感を重視することが、ブランドが他と差別化を図るための最も強力な武器となります。
本書では、こうした背景を踏まえ、最新のAI技術と融合した革新的なCX(カスタマーエクスペリエンス)デザインの理論と実践を、具体的な事例とともに体系的に解説します。マーケター、ブランド戦略担当者、事業開発者、さらにはAI時代における人間中心の体験設計に関心を持つすべてのビジネスパーソンに向け、すぐに実践可能なフレームワーク、チェックリスト、ワークショップ形式の演習プログラムを紹介。これにより、あなた自身のブランドに新たな命を吹き込み、デジタルとヒューマンタッチの融合による唯一無二の体験を創出するヒントを提供します。
さあ、これからの時代、AIがデジタルの世界を支配する中でも、私たちは五感すべてで感じる体験と、それを巡る自らの物語を武器に、ブランドの未来を切り拓いていくことができるはずです。本書を通じて、あなたも「思い出が生まれる瞬間」をデザインし、顧客との深い共感と記憶を創り出す旅に出かけましょう。